植物療法・園芸療法による認知症高齢者への長期的ケアの可能性

ハンドケアとアロマの融合がもたらす希望

園芸療法の分野では、植物と触れ合うことによる心理的・身体的な効果が数多く報告されてきました。本コラムでは、中等度認知症の高齢女性一名に対して行われた、能動的・受動的な園芸療法の長期介入研究の成果を紹介します。本研究は、九州保健福祉大学と西九州大学の倫理委員会承認のもとで実施され、AIテキストマイニング分析も取り入れた先進的なアプローチです。

研究の背景と目的

COVID-19による高齢者の社会的孤立や運動不足が懸念される中、植物とのふれあいや香りによる刺激が、認知症の進行を予防・緩和する手段として注目されています。

本研究では、認知症と診断された80代後半の女性に、アクティブガーデニング(能動的園芸療法)とハンドケアトリートメント(HCT)やアロマ(受動的園芸療法)を導入し、7年以上にわたり評価を行いました。

園芸療法の内容

能動的園芸療法(アクティブ)

  • 自立歩行による農園訪問(週3〜5回)
  • 花や野菜の栽培、肥料袋によるベランダ菜園
  • レイズドベッドのメンテナンス

 受動的園芸療法

  • ベランダからの自然観察
  • ハンドケアトリートメント(週1〜2回)
  • 脳活性アロマ(毎日使用)

評価方法とAI解析

認知機能やADL(日常生活動作)の評価には、

  • MMSE(認知機能)
  • CDR(認知症の重症度)
  • DBD13(行動・心理症状)
  • PSMS(ADL自立度)

が用いられました。

さらに、介護記録や医療記録のテキストデータをAIツール「KH-Coder」で解析し、園芸活動との関係性(共起ネットワーク)を視覚化しました。

主な結果と知見

認知機能と行動の変化

  • 入所から2年で要介護1→2と進行が緩やか
  • その後2年で要介護3→5へ進行したが、介護負担(DBDスコア)は悪化せず
  • HCTやアロマ介入時は、MMSEスコアや精神状態が明らかに改善傾向

AIによるテキストマイニング

  • 要介護1では、能動・受動療法が強く連携していた(高い中心性)
  • 要介護度が進行するほど、能動的活動は減少し、受動的なケアとの共起が増加
  • アロマやHCTは、介護度5でも有効性が示唆された貴重な介入手段

考察:早期介入の意義と多職種連携

この事例から分かるのは、園芸療法の早期介入の重要性です。とくに認知症の軽度〜中等度の段階では、HCTやアロマとの組み合わせによって、認知機能の維持精神的安定が期待されます。

また、介護職・看護職・リハビリ職などが連携して日々の変化を記録・分析することで、評価の客観性が大きく向上しました。

結論と実践への応用

植物の持つ力をもっと介護・医療の現場へ。「癒し」は、手のひらと自然の香りから。

  • 園芸療法(能動・受動両方)は、中等度認知症高齢者の認知機能・精神状態の維持に効果的である可能性が高い。
  • ハンドケアやアロマは、重度化しても継続できる非侵襲的なケア手法であり、家庭でも施設でも応用しやすい。
  • 多職種による記録とAI解析を組み合わせることで、質の高いケア評価が実現可能。

本研究は1事例ではありますが、今後の認知症予防・緩和ケアにおける植物療法の可能性を大いに示唆するものでした。

小浦誠吾
小浦誠吾
  • 西九州大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科 教授 学部長
  • 西九州大学大学院教授 医療保健学博士後期課程専攻長、リハビリテーション学修士課程専攻長
  • 西九州大学デジタル社会競争学環 教授
  • 博士(学術)
  • JHTA 日本園芸療法学会 専門認定登録園芸療法師
  • 一般社団法人日本フィトセラピー協会理事
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