【研究報告】ラベンダーアロマトリートメントオイルを使用したハンドケア施術のリラックス効果

背景

抗がん剤によって生じる手や指のしびれなどの化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)を改善する対処療法としてハンドケアが有効であることを証明した。しかし、今まで施術に対するリラックス効果は検証していない。

目的

本研究では施術後の生理・心理学データを客観的に解析し、施術によるリラックス効果を明らかにすることを目的とした。

方法

対象者 健常者 20名 (20歳代女性、基礎疾患なし)

測定項目 

①血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)、脈拍、交感神経の指標(LF補正値)、副交感神経の指標(HF補正値)

※LF補正値とHF補正値は心電図と脈拍から算出

※携帯型心電図計チェック・マイハート (Handdheld HRV)Model:CMH3.0を用いて測定した。

➁日本版STAI (心理学的アンケート)

 (スピールバーガー、C.D原著、水口公信、下仲順子、中里克治 構成)

③コルチゾール、オキシトシン量は、だ液を採取しELISA法で測定

コルチゾール(YK241 Cortisol(Saliva)EIA)、

オキシトシン(Oxiciton ELISA, wako,292・84401)


有意差検定

t検定  P<0.05を有意差ありと判定

結果

対象者の収縮期血圧は施術前107 ± 9から施術後97 ± 7 mmHg、拡張期血圧は75 ± 9から69 ±7 mmHg、脈拍は93±9から82 ± 12 回/分、交感神経指標は66 ± 13から52 ± 12 msec/Hzで有意に低下し、副交感神経指は34 ± 13から48 ± 12msec/Hzで有意に高く観察された。ストレス指数は2.5 ± 1.45から1.23 ± 0.64 msec/Hz, STAIは45 ± 12から28 ±15点と有意に低く観察された。コルチゾール量は310 ± 13から250 ± 11 pg/mLで有意に低く、オキシトシン量は25 ± 13から55 ± 13 pg/mLと有意に高く観察された(p<0.05)。

考察

血圧、脈拍、交感神経活動評価は有意に低下し、副交感神経活動は高く観察されたことからラベンダーアロマトリートメントオイルを使用したハンドセラピー施術はリラックス効果があることが示唆された。ラベンダーアロマによる香りは吸入や経皮により脳に届き、大脳辺縁系や視床下部により自律神経系に情報が伝わることで自律神経のバランスを整えたこともリラックス効果を高めた要因である。施術により血圧、脈拍、交感神経、副交感神経活動が変化した理由は、皮下の毛細血管の血流を加速させ血管の中膜から産生された一酸化窒素(NO) がグアニル酸シクラーゼ(cGMP)を活性化することで筋肉フィラメントと血管平滑筋が弛緩し末梢血管抵抗が低下するためと考えられた。副交感神経の上昇は施術後、心収縮力の低下に伴い血圧が低下し副交感神経系が働いたことが示唆された。オキシトシンは下垂体後葉から分泌されるホルモンで抗ストレス作用がある。施術後オキシトシンの上昇によりストレスの軽減が示唆された。また、下垂体刺激により副腎皮質から分泌されるストレス時に上昇するコルチゾールは施術により分泌量が低下したことからストレスが軽減したことが明らかとなった。

この研究発表は、2022年12月4日 第25回 日本アロマセラピー学会学術総会で実施されたものです。

佐々木晶子
佐々木晶子

昭和⼤学医学部 薬理学講座において、医科薬理学部⾨講師を務める。
公益社団法⼈⽇ 本薬理学会学術評議員。医学博⼠

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