【研究報告】ハンドケア施術と冷却法の併用によるCIPNのしびれ改善効果とメカニズムの解明

目的

タキサン系抗がん剤は、化学療法誘発性末梢神経障害 (CIPN) による手指のしびれを引き起こす。

我々はしびれを感じる乳がん患者に血液循環を促すハンドケア施術法がしびれ改善に有効であることを見出した。

今回、ハンドケア施術に加えてしびれ予防法である冷却法を組み合わせ、新たなしびれ改善対処療法を開発した。

さらに、しびれ改善メカニズムを解明するためにCIPN モデルマウスを作製し、痛みの閾値における経時的変化と組織学的変化を観察した。

方法

併用療法の対象者はパクリタキセル投与の15分前から注入完了後15分まで合計90分、両手指に保冷剤を握り持ち冷却をおこなった。抗がん剤治療翌日からハンドケア施術をおこなった。

しびれ評価は副作用アセスメントシートから末梢性感覚運動ニューロパチーを調べた。

CIPN モデルマウスは、10 週齢の C57BL/6J 雄性マウスにパクリタキセルを腹腔内投与し作製した。

施術は、投与 1 週間後から 4 週間まで 1 日 1 回実施した。

神経機能の変化を確認するためにvon Frey test (機械的閾値) および hot plate test (熱的閾値) を1 週間毎経時的に測定し、コントロール群、ハンドケア施術群、パクリタキセル投与 3 週間後のマウス群の後足を採取し、神経軸索の組織形態と、形態内の微細小器官の変化を透過電子顕微鏡で観察した。

結果と考察

ハンドケア施術と手指冷却法を組み合わせた併用療法では、末梢性感覚運動ニューロパチーのGradeが低く、手指のしびれが発現しにくいことが明らかになった。

このことから併用療法はしびれ改善に有効であることが示唆された。

CIPN モデルマウスを用いた透過電子顕微鏡の観察で、コントロール群では有髄神経、無髄神経とも形態異常は認められず、ミエリンの配列も正常であった。

モデルマウス群では、組織学的に血管の肥厚、ミエリン配列の乱れが観察された。

ハンドケア施術後のマウス群では、機械的閾値および熱的閾値の改善が認められ、有髄神経、無髄神経の形態とミエリンの配列は正常状態に近い画像が観察された。

結語

しびれを感じる患者に対してハンドケア施術と手指冷却法を組み合わせた併用療法はCIPN予防効果と改善効果が得られることが明らかになった。

CIPN モデルマウスを用いたハンドケア施術によるしびれ改善メカニズムは、手指の血液循環を促進することで末梢神経の修復に関与することが示唆された。

この研究発表は、2022年10月22日の第60回日本癌治療学会学術集会で実施されたものです。

佐々木晶子
佐々木晶子

昭和⼤学医学部 薬理学講座において、医科薬理学部⾨講師を務める。
公益社団法⼈⽇ 本薬理学会学術評議員。医学博⼠

→講師紹介はこちら

ページのトップに戻る