【ハンドケア対談】医療現場でのハンドケアについて

医療法人弘生会 老寿やすらぎ病院 看護部長 西野久美子先生と、ソフィアフィトセラピーカレッジ校長の池田明子の対談です。医療現場でのハンドケアについてお話をうかがいました。

看護部長 西野久美子先生(以下、西野先生)

当院はご高齢の患者さまが多く、その患者さまに対して、ご家族さまに代わって何かして差し上げることはできないか、と思ってはじめたのが「やすらぎハンドケア」なのです。

ハンドケアの講座ってたくさんあるのですね。その中でも、当院の理事長や私の思いと池田先生主宰のソフィアフィトセラピーカレッジ様の考えが一番近かったので、受講させていただきました。

池田明子(以下、池田)

私共の思いに共感いただきありがとうございます。ハンドケアは一見簡単に見えますが、やっていくと奥が深いものなので、続けていただくと感覚が磨かれ、技術もどんどん上がっていきます。

西野先生

医療分野でのハンドケアは、機能訓練のリハビリテーションとして理学療法士が行う領域のものですが、当院の患者さまは平均年齢が90歳に近い方々なので、意識が鮮明でない方や認知症の方、五感がかなり落ちている方もいらっしゃいます。

そのような方でも、「耳の感覚は最後まで残るかも知れない」と考えて、患者さまへのお声がけを心がけて来たのですが、それだけではと思うようになり、「タッチをしてみよう」ということになったのです。そのため、《やすらぎハンドケア》は、リハビリというよりは癒し(ヒーリング)という考えで行っています。

池田

九州の大学でも研究が進められているのですが、ハンドケアは認知症の進行を抑制する予防効果があるようですね。

西野先生

当院でもその効果は感じています。実際に、認知症で普段は体に触れると怒る方がいらっしゃいますが、その方はハンドケアをしていると段々と穏やかになられます。気持ちがいいからでしょう。

私自身、スタッフに施術してもらうこともあるのですが、気持ちが良くてときどき眠ってしまいそうになりますね。認知症の方の心が穏やかになるのもわかります。

池田

病院で施術されていて、《やすらぎハンドケア》のエピソードなどはありますか?

西野先生

こんな事例がありました。患者さまのご家族さまで50歳近い男性の方がいらっしゃいまして、いつもはその方の奥さまが面会に来られていました。その奥さまが「義母のために自分は何もしてあげられない」と言われていた時に「ハンドケアに参加しませんか」とお声がけをしたのですが、その方が参加された後で「次回はぜひ主人を連れて来たい」とおっしゃったんです。患者さまの実の息子にあたるご主人さまは、最初は嫌がっていたそうですが、無理やり連れて来られて、お母さまの手を握って「母の手ってこんなに小さかったんだ」と言って、涙を流されたんです。小学校以来、手を握っていなかったそうです。

池田

男のお子さんは特にそうかもしれませんね。日本の傾向として、小学生まではふれ合いが多いけれど、中学生になってからは極端に減るそうです。海外では、ハグしたり握手するふれあいの習慣がありますが、日本は違いますからね。

西野先生

「本当に何十年ぶりに母の手を握った。これからもまた来るね」と声に出されたときに、私たちがしていることは大したことではないかも知れないけれど、ご家族さまのグリーフケアにもなるのかな、と思いました。

ご家族さまだけでなく、患者さまが涙を流されるシーンがあったという報告も何件もありました。職員もこの取り組みをさらに進めていきたいと考えていて、院内での研修に励んでいます。

職員の中からは、夫婦ゲンカの予防になるかも、という声も出ています。(笑)

池田

ハンドケアは、自分が大切にされているという気持ちが施術された方の中に芽生えてきますからね。

やはり手は体の中でも特別な部位ですね。そもそも、看護師の方がされるのは「手当て」ですものね。

西野先生

字で書くと「手を当てる」と書きます。だから、「私たちは患者さまを診て、声をかけて、ふれようね」と職員に言っています。「看護の原点に戻りましょう!」と。

池田

「看護の原点」いいですね。

医療現場でのハンドケアのご様子を伺えて、心から感謝しております。ありがとうございました。

インタビューご協力:
医療法人弘生会 老寿やすらぎ病院
看護部長 西野久美子先生
http://roujyu.jp/

ページのトップに戻る