Sophia Phyto-therapy College

コラムタイトル
“ある日のハンドケアセラピスト、ある日の情景。”

今日はハンドケアボランティアの日。
この高齢者施設を訪問しはじめてどのぐらい経つだろう? 半年か、それとも一年ぐらい?ここにいらっしゃるお年寄りは数十人、私が1日にハンドケアして差し上げられるのは、多くて5人。機会はなるべく均等にということで、まだすべての方とお会いできてはいない。だからあいさつはいつも「はじめまして、こんにちは」。

スタッフさんから指示をいただき、最初にお訪ねする方のお部屋をノックした。お部屋の主は、90歳代の女性Tさん。入所されてまだ1週間とのことで、不安そうな、心許なく、寂しげな表情を浮かべていらっしゃる。

「ハンドケアさせていただきに来ました。よろしくお願いしますね」と私。

「ハンドケアってなに?なにされるの?」とTさん。眼差しに緊張感が走り、車イスの肘掛をつかむ指先に力が入っています。

「Tさん私ね、いろいろなものを作ったり、愛したり、たくさん働いてこられた手が大好きなんです。それでね、今日はぜひ、Tさんの手をお疲れ様の気持ちを込めてマッサージさせていただけたらなぁと思って来ました」

そう私が言うと、目をまあるくキョトンとされたTさん。それでも私が差し出した左手に、ご自分の右手をそっと乗せてくださいました。ホッ。

ハンドケアの最中、Tさんは、
「こんなことしてもらったのって初めてよ。気持ちいいわぁ」と目尻を下げておっしゃいました。
「息子は私の作った卵焼きが大好きでねぇ」
「ほら、この写真のセーターは私が編んだのよ」写真立ての息子さんのお写真を懐かしそうに見つめています。「・・・もういないけどねぇ」

施術が終わり、そっと手を包み込み、放そうとすると、
「あらもう終わり?気持ちよかったわ。今度はいつ来てくださるの?こんなによくしてくださって、あなた優しいのねぇ。ここを選んでよかったわ」と、私の手を握り返してくださいました。Tさんの言葉に私は胸いっぱい、溢れる幸福感に包まれました。

施設からの帰り道、自転車のペダルを踏む足が、来た道よりも軽やかになっていることにふと気付きました。ハンドケアをできるようになってよかった、ハンドケアを教えてくださってありがとう、と東の空に向かって大きく手を振りました。

  • 角田 りか